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札幌地方裁判所 昭和44年(ワ)1024号 判決 1971年12月27日

原告 山本義晴

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 丸岡敏

被告 札幌トヨタディーゼル株式会社

右代表者代表取締役 真弓政久

同 吉田繁樹

右訴訟代理人弁護士 中島一郎

主文

一、被告は、原告山本義晴に対し金五五〇、〇〇〇円および内金五〇〇、〇〇〇円については昭和四四年七月二〇日から、内金五〇、〇〇〇円については昭和四六年一二月二八日から各完済まで年五分の割合による金員を、原告田代望東治に対し金二二、〇〇〇円および内金二〇、〇〇〇円については昭和四四年七月二〇日から、内金二、〇〇〇円については昭和四六年一二月二八日から、各完済まで年五分の割合による金員を、原告株式会社札幌不二屋クリーニング店に対し金三四六、一二九円および内金三一六、一二九円については昭和四四年七月二〇日から、内金三〇、〇〇〇円については昭和四六年一二月二八日から、各完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告は、原告山本義晴に対し金一、五二九、五〇〇円および内金一、三三〇、〇〇〇円については昭和四四年七月二〇日から、内金一九九、五〇〇円については本判決言渡の日の翌日から、各完済まで年五分の割合による金員を、原告田代望東治に対し金七二、八三三円および内金六三、三三三円については昭和四四年七月二〇日から、内金九、五〇〇円については本判決言渡の日の翌日から、各完済まで年五分の割合による金員を、原告株式会社札幌不二屋クリーニング店に対し金四一二、一六〇円および内金三五八、四〇〇円については昭和四四年七月二〇日から、内金五三、七六〇円については本判決言渡の日の翌日から、各完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告山本義晴(以下、「原告山本」という。)、同田代望東治(以下、「原告田代」という。)は次の交通事故(以下、「本件事故」という。)により傷害を受けた。

1、発生日時  昭和四三年一月二二日午後一時三〇分ごろ

2、発生場所  札幌市宮ヶ丘三番地先路上

3、加害車   普通乗用自動車(札五み八、六八〇号)

右運転者  訴外沼田武(以下、「訴外沼田」という。)

4、被害者   原告山本および原告田代(原告山本は当時普通乗用自動車(札五み三、〇八五号)を運転中、原告田代は同車に同乗中)

5、事故の態様 訴外沼田は加害車を運転して前記場所を円山動物園方向より坂下グランド方向に向け進行中、その前方で停車中の原告山本が運転し、同田代が同乗中の前記車両に加害車を追突させた。

6、傷害の部位・程度

(原告山本)

イ、傷病名  頸つい不安定症、外傷性腰痛症

ロ、治療状況 中村脳神経外科において昭和四三年二月七日から同年四月二四日までの間入院加療し、その後昭和四四年一月二〇日まで同病院において通院加療をした。

(原告田代)

イ、傷病名  頸つい捻挫

ロ、治療状況 中村脳神経外科において昭和四三年一月二二日から同年二月九日までの間通院加療をした。

二、(責任原因)

1、被告は自動車の販売を業とする会社であり、訴外沼田は自動車販売員として被告に勤務していたものであるところ、被告は自己の自動車販売活動の便宜のために、加害車を所有権を留保して割賦販売した。そして、本件事故は、訴外沼田が加害車を使用して被告のための販売活動に従事中に発生したものである。したがって、被告は、本件事故当時、加害車を自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条によって、本件事故により原告山本および同田代が被った後記損害を賠償する責任がある。

2、また、被告は、前記のとおり、訴外沼田を雇傭するものであるが、同訴外人が被告の業務のために加害車を運転中、前方注視の義務を怠った過失により、本件事故を発生せしめたものであるから、民法七一五条によっても、本件事故により原告山本および同田代が被った後記損害を賠償する責任がある。

三、(原告山本、同田代の損害)

1、原告山本

(1)休業損害   五〇、〇〇〇円

原告の職業 原告株式会社札幌不二屋クリーニング店(以下、「原告会社」という。)従業員

同月収   五〇、〇〇〇円

同休業期間 昭和四三年二月七日から同年四月二四日までは全く就労することは出来ず、さらに昭和四三年四月二五日から同四四年一月二〇日までの間は四〇パーセントしか就労することが出来なかった。

休業損害総額     三九七、〇〇〇円

原告山本は右休業損害のうち三四七、〇〇〇円を原告会社から支払を受けたので、その残額五〇、〇〇〇円の支払を求める。

(2)慰謝料 一、二八〇、〇〇〇円

(3)弁護士費用 一九九、五〇〇円

2、原告田代

(1)慰謝料    六三、三三三円

(2)弁護士費用   九、五〇〇円

四、(原告会社の請求)

原告山本は本件事故により前記のとおりの休業損害を被り、また、原告田代も同じく原告会社の従業員であったものであるが、同原告は本件事故による受傷によりその通院期間中四〇パーセントしか就労できなかったので、これにより一一、四〇〇円の損害(同人の月収入は三〇、〇〇〇円である。)を被った。そして、原告山本、同田代の受傷はいずれも同原告らが原告会社の業務に従事中に発生したものであったので、原告会社はこれらのうち原告山本に対しては三四七、〇〇〇円を、同田代に対しては一一、四〇〇円を支払った。

よって右合計三五八、四〇〇円と弁護士費用五三、七六〇円の支払を求める。

五、(結論)

よって、被告に対し、原告山本は右の合計金一、五二九、五〇〇円およびこれより弁護士費用を除いた金一、三三〇、〇〇〇円については本件事故の日の後である昭和四四年七月二〇日から、弁護士費用金一九九、五〇〇円については本件判決言渡の日の翌日から、各完済まで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告田代は右の合計金七二、八三三円およびこれより弁護士費用を除いた金六三、三三三円については本件事故の日の後である昭和四四年七月二〇日から、弁護士費用金九、五〇〇円については本件判決言渡の日の翌日から、各完済までいずれも前記割合による遅延損害金の支払を、原告会社は右合計金四一二、一六〇円およびこれより弁護士費用を除いた金三五八、四〇〇円については本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四四年七月二〇日から、弁護士費用金五三、七六〇円については本件判決言渡の日の翌日から、各完済までいずれも前記割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

第四、請求の原因に対する答弁

一、請求原因第一項(事故の発生)の事実は知らない。

二、同第二項(責任原因)中、被告が訴外沼田を雇傭していること、右沼田に対し加害車を所有権を留保して割賦販売したことは認めるが、同訴外人に前方注視義務を怠った過失があるとの点は不知であり、その余の事実は否認する。

三、同第三項(原告山本、同田代の損害)、第四項(原告会社の請求)の事実はすべて知らない。

第五、証拠関係≪省略≫

理由

一、(事故の発生)

≪証拠省略≫によれば、請求原因第一項(事故の発生)の1、ないし5、の事実、原告山本は本件事故により頸つい不安定症、外傷性腰痛症の傷害を受け、中村脳神経外科に通院するかたわら自宅で静養していたが、昭和四三年二月七日同外科に入院し、以後同四三年四月二四日まで治療を受けたが、同日退院後も目まいや肩こりの症状が残ったため、さらに同外科に昭和四三年九月ごろまでは毎日、同四四年四月二四日までは隔日程度通院して治療を受けたこと、しかし、昭和四三年九月ごろからは自分で自動車を運転して通院できる状態にまで回復してきたこと、また、原告田代も本件事故により頸つい捻挫の傷害を受け、昭和四三年一月二二日から同年二月九日までの間、数回にわたり中村脳神経外科に通院して治療を受けたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二、(責任原因)

そこで、原告山本、同田代に対する被告の責任の存否について判断するに、先ず、被告が訴外沼田を雇傭していること、被告会社が加害車を右沼田に対し所有権を留保して割賦販売したことはいずれも当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すると、次のような事実を認めることができる。

(1)被告は自動車の販売を業とする会社であり、訴外沼田は自動車販売員(セールスマン)として、昭和四一年三月、被告に入社し、その本社でセールスの見習いを終えた後、同年八月ごろより、その南営業所勤務となり、以後、本件事故当時まで自動車販売員として被告の業務に従事してきたものである。

(2)被告の会社には、従前から、その販売する車種の宣伝と販売活動の能率向上を目的とした「自家用車の社用借り上げ」なる制度があり、被告に一年以上勤務するなど一定の資格のある社員は、被告の指定する車種を被告より購入するに際しては、その代金額、支払方法などにつき有利な扱いを受けることとされており、また、このようにして購入した車両を被告の承認のもとに社用に使用する場合には、燃料代、修理代、保険料などは被告の負担とされていた。そして、右制度のもとでは、自家用車を社用に使用するには被告の承認が必要とされていたのであるが、その趣旨は、承認を受けないで自家用車を社用に供することを禁ずる点にあるというよりは、むしろ、承認を受けない以上、自家用車を社用に供しても、燃料代、修理代等につき社用借り上げとしての扱いを受けることができないという点に重点があったものである。ところで、訴外沼田が加害車を被告から割賦購入した昭和四一年六月ころには、同訴外人は入社後三か月ぐらいで、未だ、被告の本社においてセールスの見習い中であったため、社用借り上げの承認を求めても許可されないと考え、結局、本件事故当時まで加害車について被告より社用使用の承認は受けないままになっていた。

(3)しかしながら、訴外沼田は、加害車の購入当初はこれをもっぱら通勤用にのみ使用していたものの、南営業所勤務となってからはしばしばこれを被告のためのセールス業務に使用するようになり、社用使用が該車の全体の運行のかなりの部分を占めるようになった。そして、このことは同営業所所長代理においても知るところとなり、被告の建前としては自家用車を許可なく社用に供してはならないこととされていたので、本件事故発生の約一か月前にも右所長代理が訴外沼田に対し口頭で注意を与えたようなこともあったが、その後も同訴外人は加害車を被告のセールス業務に使用しており、右所長代理らはそれを知らないわけではなかったが、何ら特別の措置を採ることもしなかった。

(4)本件事故は、訴外沼田がその勤務時間内に友人を訪ねた帰途に発生したものである。その友人はたまたま不在ではあったが、同人を訪問した目的は少なくとも一部は、同人より車両を購入しそうな人の紹介を受けることにあった。

そして、他には右認定を覆すに足る証拠はない。

以上に認定の諸事情、とりわけ、訴外沼田が加害車を被告の業務に使用した期間とひん度、それに対して被告が採った措置、本件事故発生時の加害車の運行目的などに照し、加害車の運行による利益と運行に対する支配が被告に帰属していたとなすべきことは明らかであり、被告は運行供用者として本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。

三、(原告山本、同田代の被った損害)

(原告山本)

(1)休業損害 五〇、〇〇〇円

≪証拠省略≫によれば、原告山本は、原告会社に勤務し、本件事故当時、一か月五〇、〇〇〇円の賃金を得ていたものであるが、本件事故による傷害とその治療のために、昭和四三年一月二二日から少くとも同年八月末日までは休業せざるを得なかったことが認められる。従って、同原告が右の期間に得べかりしであった賃金総額を同原告の被った休業損害ということができるけれども、同年二月に得べかりし五〇、〇〇〇円の賃金を除き、すべて原告会社より支払を受けたことは同原告の自認するところであるから、その限度で右損害はてん補されたものであり、結局、被告が同原告に賠償すべきは右の五〇、〇〇〇円ということになる。

(2)慰謝料 四五〇、〇〇〇円

既に認定した原告山本の傷害の部位、程度ならびに治療状況等に鑑み、同原告が本件事故により被った精神的損害を慰謝すべき額は四五〇、〇〇〇円とするのが相当である。

(原告田代)   二〇、〇〇〇円

原告田代についても、既に認定した同原告の傷害の部位、程度と治療状況に照し、本件事故による同原告の慰謝料は二〇、〇〇〇円とするのが相当である。

四、(原告会社の請求について)

原告山本が、本件事故による傷害とその治療のために、昭和四三年一月二二日から少くとも同年八月末日までは休業せざるを得なかったこと、同原告が本件事故当時原告会社に勤務して、一か月五〇、〇〇〇円の賃金を得ていたものであることは既に認定のとおりである。そして、≪証拠省略≫を総合すれば、原告山本は本件事故当時原告会社の業務に従事中であったこと、原告会社は原告山本に対し、同原告が昭和四三年一月二二日から同月三一日までおよび同年三月一日から同年八月末日までの間に得べかりし賃金相当額全額(三一六、一二九円)を支払ったことが認められる。

しかして、原告会社は右支払額を、そのうち労働基準法七六条により原告会社が原告山本に休業補償として支払うべき分については民法四二二条の類推により、また、その余の部分については民法七〇二条により、被告に対し請求しうることになる。もっとも、原告会社が労災保険に加入している限りにおいては、原告会社には休業最初の三日を越えては休業補償を支払う義務はないこととなるが、原告会社が労災保険に加入していることの主張のない本件においては右のとおり解するほかない。

次に、原告会社は、原告田代もその通院期間中の六割を休業したと主張し、原告会社代表者は右主張に添うかの供述をするが、たやすくこれを措信できず、また、原告田代が昭和四三年一月二二日から同年二月九日までの間数回にわたり通院したことは既に認定のとおりであるが、右事実のみを以ってしては原告会社の右主張を推認するには足らず、他にこれを適確に認めるに足る証拠はない。

五、(弁護士費用)

以上のとおり、被告に対し、原告山本は五〇〇、〇〇〇円を、原告田代は二〇、〇〇〇円を、原告会社は三一六、一二九円を、それぞれ請求しうるものであるところ、≪証拠省略≫をあわせると、原告らは本訴の提起追行を本件原告ら訴訟代理人に委任し、着手金として合計二〇〇、〇〇〇円を既に支払ったほか、成功報酬として各認容額の一割を本件判決言渡の日に支払う旨を約したことが認められる。よって、本件訴訟にあらわれた一切の事情に鑑み、右のうち被告に負担さすべき弁護士費用相当分は、原告山本につき五〇、〇〇〇円、原告田代につき二、〇〇〇円、原告会社につき三〇、〇〇〇円とする。

六、(結論)

よって、被告は、原告山本に対し右の合計金五五〇、〇〇〇円とこれより弁護士費用を除いた金五〇〇、〇〇〇円については本件事故の日の後である昭和四四年七月二〇日から、弁護士費用金五〇、〇〇〇円については本判決言渡の日の翌日から、各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の、原告田代に対し右の合計金二二、〇〇〇円とこれより弁護士費用を除いた金二〇、〇〇〇円については本件事故の日の後である昭和四四年七月二〇日から、弁護士費用二、〇〇〇円については本判決言渡の日の翌日から、各完済まで前記割合による遅延損害金の、また、原告会社に対し右の合計金三四六、一二九円とこれより弁護士費用を除いた金三一六、一二九円については一件記録上訴状送達の日の翌日であることの明らかな昭和四四年七月二〇日から、弁護士費用金三〇、〇〇〇円については本判決言渡の日の翌日から、各完済まで前記割合による遅延損害金の、各支払義務があるから、右の限度で原告らの本訴請求を認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 惣脇春雄 裁判官 村上敬一 佐藤久夫)

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